「みんな死にました。」

一斉に皆ひろみの方を見た

唐突に発せられたこの言葉を誰も理解できていないようだ。

「お前何言ってんだよ。」

「みんなって誰だよ!」

いくらかの生徒達はこのような反論をひろみになげかけたが 無理に笑おうとして顔がひきつっている。

それも無理はないだろう。

それはひろみという人柄に関係していた。

ひろみはつい先週このクラスに転入してきた。

初めはみんな興味本位でひろみに話しかけていたが

そう長くは続かなかった。

なぜならひろみは無口で近寄りがたく何を考えているか分からなかったから。

もちろん決して冗談など言うタイプではない。

そのひろみが突然このような言葉を発したのだ。

ひろみはその後立ったまま何もしゃべろうとしない。

ざわめく生徒達。

方々から不満そうな声が漏れた。

このSHRが終われば放課後となるのだ。

39の視線がひろみにふりそそぐ。

全ての視線が悪意と好奇心に満ちていた。

それでもひろみは何もしゃべろうとせず、何かを考えているようだ。

ようやく均衡をやぶったのは担任の高田であった。

「坂上、それはどういう意味だ?」

高田は早く終わらせようと仕方なく尋ねた。

生徒達は固唾を呑んでひろみの反応を待った。

そしてしばらくしてひろみは答えた

「みんなは死んでいます。」

この答えに清水真人が我慢の限界とでも言うように吐きすてた

「お前、頭おかしいんじゃねーの?」

ひろみはちらりと清水を見やり、無視して続けた。

「ここで、何をもって死と定義するのか考えねばなりません。」

「無視かよ・・・」と清水はぼやいた。

「もし、心臓が止まった状態を死とするのであれば・・・みんな死んでいます。」

「ふざけないでよひろみ!心臓ならちゃんとこうして動いてるわよ!」

木山咲子はおおげさに手で胸を抑えながら言った

「咲子さん。あなたの心臓は止まっています。もっと正確に言うと全てが止まっています。」

「意味分かんないわよ!みんなもう帰りたいの!それが分からない?」

「そうですか。では帰りたい人はどうぞ。」

ひろみは冷静に言った。

そこで高田が口をはさんだ。

「よし!HRはおしまい!みんな帰っていいぞ。坂上はちょっと来い。」

生徒達は一斉に席をたつとドアの方へ歩いていった

しかし先頭にいた藤田明がドアに手をかけながら言った

。 「あれ?これ開かない。」

「おいこっちもだよ!」

もう一つのドアも同じように開けられないようであった。

「明、どけよ。開かないはずないだろ。」

「いやマジだって。開けてみろよ。」

「あれ・・・ほんとにあかねえ・・・。」

その後誰がやっても同じことだった。

開く気配すらせずびくともしない。

まるで壁の一部であるかのように。

「なんで開かないんだよ!」

「どうなってんだよ!」

「どうして開かないの!?」

生徒達は色めきだった。

「・・・おいひろみ、お前がやったのか?」

佐々木和彦の一言でまた皆の注目がひろみに集まった。

「・・・ここから出る事はできません。ドアが開く事はありませんし、窓も開けられません。割る事もできません。」

「割る事もできねーだ?じゃあ割ってやろうじゃねえか。」

言うが早いか町山一志は窓に歩みよると近くの椅子を持ち上げた。

それを見た高田はあわてて

「こら、やめろ!」

と静止したが町山は椅子を窓にめがけてふりおろした。

町山は本気でやったようだったし、椅子の速度も申し分なかったように思われたが 窓は割れなかった。

「ちくしょう、割れねー。」

町山はそういいながらもう一度椅子を真上にかかげた

そして何度も窓へふりおろしたが窓は乾いた音をさせるだけでびくともしない

女子生徒の誰かがつぶやいた

「ど、どうなってるの・・・。」

町山は息を切らして椅子を床に転がした。

それぞれの顔に緊張と恐怖の色が走った

高田も窓が割れなかった事に安心している、というよりは恐怖を感じているようだった

「説明をします。みなさん落ち着いて聞いて下さい。」

ひろみの声が静寂の中で響いた

「先ほど皆さんは死んだといいましたが、すみませんそれは正しくはありません。

現状の説明をスムーズに行うため、皆さんの注目を取ろうと思い あの発言をしました。

ですがそれはある意味では正しいのです。というのは、先ほど話した心臓が止まっている、というのは 本当の事なのですから。」

ここでひろみは一息ついた。

町山は窓を拳で叩いていたが相変わらず乾いた音をさせるだけで割れる気配はない

生徒達は一言もしゃべらずひろみの話に聞き入っていた

「どう話していいものかしら。話はあまり得意なほうでないもので。・・・では単刀直入に言いましょう。今の皆さんは精神体です。」

「・・・精神体って、幽体離脱とかの?」

と小林良美がこう質問した

「そうです。」

「んな訳あるかボケ。」

町山がつぶやいた。

「私は特殊な力を持っています。人の精神体を引き出す事ができる力です。

本来ならそれだけでこのような事は できないのですが今回はある人の力もお借りして時を止めてもらっています。

これだけの時を止めるのは現実の世界では不可能なので私が皆さんの精神体を引き出し その世界で、この教室に限って時を止めてもらいました。

それならば大した事ではありません。ですから本当の世界では 皆さんは今肉体だけで心臓も止まっていますし全てが止まっています。

分かりやすく言うと今皆さんで同じ夢を見ている 状態です。」

「坂上・・・これは現実なのか?」

高田が口をはさんだ

「現実です。」

「ありえない・・・」

高田はかすかにつぶやいた。

「夢を見ている状態?それってたとえば今ここで私が傷ついても・・・なんて言うのかな、傷つかないってこと?」

「木山さん察しがいいですね。その通りです。」

教室中に沈黙が流れた

しかし今回は先ほどの町山のように試しに自分を傷つけてみようとするものはいなかった

「ですが、死ぬのはだめです。ここで死んだら本当の世界でも死にます。

みなさんは夢で自分が死ぬのを見た事がありますか? それは精神体の死を意味します。精神体の死は肉体の死に繋がります。

・・・そうですね、まだ信じる事が出来ない人は ご自身をつねってみてください。」

そう言われ、全員自分の腕をつねってみた。

「・・・痛くない・・・何も感じない」

「・・・私も」

「よく自分をつねって痛い、これは夢じゃないんだ。ってのはあるけどつねって夢である事を確認なんてなかなかないよね!」

横石慶介が笑いながら言った

それを聞いた周りに横石は白い目で睨まれた

「だいたい分かっていただけたでしょうか、今の状況を。」

「分かるかよボケ!なんだっつーんだよ!」

町山がひろみにつかみかかった

「離して下さい。」

町山は離そうとせずひろみをにらみつけていた

「・・・ひろみ、分かった。信じられない出来事だけど身をもって体験しちゃね。

あなたの言う事を信じるしかないわ。 みんなも同じ感想だと思う。町山、離してあげなよ。」

木山がそう言うと

「ちっ」

と町山は舌打ちして強引に手を離した

「で、ひろみ。目的はなんなの。こういう事する目的は?」

「・・・ERROR(エラー)を探しています。」

ひろみの口調が強まった。



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