昔々ある国にとても大規模な飢饉が起こりました。

人々はその日食うものも満足に得られず

たくさんの人々が飢えて死んでいきました。



その国に、Sという男がおりました。

Sは一匹の犬と一緒に住んでおり、たいそうその犬をかわいがっておりました。

Sは自分がどんなに空腹でも、その犬にだけは食べ物を与えました。

このような飢饉の時は、犬は食べられてしまうのも珍しくなく、

そのため犬はたいへん主人に恩義を感じ、

主人を楽させてあげたいと思うようになりました。



そしてある日その犬は近所ののら犬達がこんな話をしているのを耳にしました。

「いつまでもここにいたら人間達に食べられてしまう」

「ではどうしたらいいんだい?」

「あそこの森の中に魔女が住んでいるらしい。みんなで行って頼めば住ませてくれるかもしれない。」

「でも魔女もこの飢饉じゃ僕達を飼う余裕なんてないんじゃないかい?」

「ははは、魔女は何でもできるんだから、へっちゃらだよ!」



犬は魔女は何でもできるという言葉を聞き、

もしかしたら魔女のところに行けば主人を楽させる事ができるかもしれないと思いました。

しかし犬は主人と離れることが辛くなかなか出かける決断ができずに月日は過ぎていきました。



ところがますます飢餓は進行していき、

Sも犬も全く食べれないという日さえあるようになりました。


そしてついに犬は、魔女の元へ行くことにしました。


驚いたのはSです。

どこを捜しても犬が見当たりません。

Sはたいへんショックをうけ、ああ僕が満足に食べ物も与えられなかったから

この家を出ていってしまったに違いないと思いました。

















森に着いた犬は森の不気味さに思わず身をすくめましたが、

主人のためと、なんとか歩きだしました。

初めて来た森で、しかも魔女の居場所など分からなかったのですが

何か不思議な力に導かれるように足は自然と動きました。



しばらく歩いていくうちに、犬は魔女の家にたどりつきました。

何羽ものカラスが、犬を嘲り笑うかのように鳴きました。

入り口には頑丈な扉が閉まっており、とても入れそうにありませんでした。

しかし犬が中に入れずに困っていると扉は自然に開きました。

中に入ると、扉は勢いよく閉まり、開けようとしてもビクともしませんでした。

カラス達は一層鳴き声を張り上げました。



家の中は薄暗く、犬は何度も壁にぶつかってしまいましたが

やがてある部屋の前に来ると、中に人の気配がするのが分かりました。その瞬間

「お入り」

と太くしゃがれた声がし、扉が開きました。

中には今まで見たこともないような邪悪で、薄気味の悪い老女が一人座っていました。

犬はあわてて逃げようとしました。がしかし犬の体は見えない大きな力に吹き飛ばされ、

魔女の前にたたきつけられてしまいました。

「また犬のお客さんかい。お前も食べられにきたのかい?」

見ると、あたりにはいくつかの犬の骨が転がっていました。

あの野良犬達の骨だろうか、自分もこうなってしまうのかと考えると

犬はここにきた事を後悔し始めました。

ですが主人のことを考えるとここであきらめる訳にはいきません

犬はここにきたいきさつをあらいざらい話し、

僕はどうなってもいいから主人を助けてほしいと頼みました。

すると魔女は低い声で笑いながらこう言いました

「お前は人間のためにここへ来たのか。いま時珍しい犬だ。

いいだろう、お前が気に入った。しばらくここに住むがよい。

魔法を教えてやろう。それでお前の主人を楽させてやるがよい」

死を覚悟していた犬は魔女の言葉に驚き、忠誠を誓いました。



















一方Sはいつ犬が戻ってきてもいいようにと、死にものぐるいで働き

裕福になろうとしました。

Sにはもともと商売の才能があり、

次々と商売を成功させてゆき

いつしか街一番の権力者にまでなりました。

そして飢饉も大分おさまってゆくと、人間達にもゆとりができ始めました。

すると人間達はどうして飢饉が起きたのかを考えはじめるようになりました。

そしてある人がこんなことを言いだしました。



きっとあの森に住んでいる魔女の仕業に違いない。

森ごと魔女を焼き払ってしまうべきだ



人々はこれに賛成し、Sに許可を求めました。

Sは確かに魔女の仕業なのかもしれないと思い

森を焼くよう命じました。

森はあっという間に炎につつまれ、一夜でその姿を消しました。




Sは益々裕福になっていきましたが、とうとう犬が戻ってくる事はありませんでした。



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